その経費、今年?来年?個人事業主が押さえておきたい判断の考え方

確定申告・所得税
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和歌山で税理士をしている和田全史です。

確定申告の時期になると、こんなご相談をいただきます。

「この経費は今年払ったから、今年分ですよね?」「来年に支払った方がよかったですか?」

少しややこしいのですが、この記事では、申告する年分を「今年分」、その翌年分を「来年分」と表現します。

経費をどの年分に入れるかは、単に“支払った時期”で決まるわけではありません。原則としては、「いつ支払ったか」ではなく、「いつ物の引渡しを受けたか」「いつサービスを受けたか」で判断します。もっとも、すべてが機械的に決まるわけでもありません。一定の範囲で判断の余地がある項目もあります。

そしてもう一つ大切なのが「所得水準」の視点です。所得税は累進課税ですから、所得が高い年ほど、経費の効果は大きくなります。住民税や国民健康保険料も、税率は一定でも所得金額の影響を受けますし、非課税判定や各種制度の所得制限にも関係します。

今回は、「その経費、今年?来年?」というテーマについて、基本ルールを押さえたうえで、制度上判断できる範囲と、所得水準の影響も踏まえた考え方をお伝えします。

経費は「支払日」で決まらない

経費をどの年分に入れるかを考えるとき、まず押さえておきたいのが基本ルールです。

原則として、経費は「いつ支払ったか」ではなく、「いつ物の引渡しを受けたか」「いつサービスの提供を受けたか」で判断します。いわゆる発生主義の考え方です。

例えば、次のようなケースです。

  • 12月分の外注費を1月に支払った場合
    サービスを受けたのが12月であれば、今年分の経費になります。
  • 1月分の家賃を12月に前払いした場合
    実際に使用するのが翌年であれば、原則として来年分の経費になります。
  • クレジットカードで12月に消耗品を購入し、引き落としが1月になった場合
    判断基準は引き落とし日ではなく購入日です。

このように、「お金が動いた日」と「経費になる年分」は一致しないことが少なくありません。

したがって、「今年中に払ったから今年分になる」という単純な話ではない、という点が出発点になります。

原則どおり処理するしかないもの

まず前提として、基本ルールどおり処理するしかないものがあります。

例えば、12月に事業用の消耗品を購入し、引渡しを受けて使用を始めていれば、代金の引き落としが翌年であっても今年分の経費になります。

一方で、12月に代金を支払っていたとしても、実際に納品されたのが翌年であれば、来年分の経費になります。

また、12月に外注した業務についても、サービスの提供を受けたのが12月であれば、支払いが翌年になったとしても今年分の経費です。

このように、「物の引渡し」や「役務の提供」という事実で判断することになります。支払日だけで動かすことはできません。

発生時期が明確なものについては、基本的に選択の余地はありません。

一定の条件で判断できるもの

ここまで見てきたとおり、発生時期が明確なものについては、基本的に動かすことはできません。

一方で、税法上、一定の要件を満たす場合に限って「どの年分に入れるか」を判断できる項目もあります。

代表的なのが、短期前払費用、繰延資産(開業費など)、そして貸倒引当金です。

短期前払費用は、支払日から1年以内の役務提供であり、継続して同様の処理を行うなどの要件を満たせば、本来は期間按分すべき費用を支払った年分の経費とすることが認められている制度です。

また、開業費などの繰延資産は任意償却とされており、未償却残高の範囲内であれば、どの年にどれだけ償却するかを選択できます。

さらに、青色申告者に認められている貸倒引当金は、繰り入れた金額について一定の限度額まで必要経費に算入できる制度であり、計上自体は義務ではありません。ただし、繰り入れた金額は翌年に戻入されるため、所得を前後に調整する仕組みといえます。

このように、すべてが機械的に決まるわけではなく、一定の枠内で判断の余地がある項目も存在します。

税率と所得制限を踏まえて考える

ここまで見てきたように、一部の項目については、一定の範囲で「どの年分に入れるか」を判断できます。

では、その判断は何を基準にすればよいのでしょうか。

一つの視点が「税率」です。

所得税は累進課税です。例えば、課税所得が195万円以下であれば税率は5%ですが、330万円を超え695万円以下の区分では20%になります。

仮に、10万円の経費を今年分に入れるか来年分に回すかを考えるとします。

税率が5%の年であれば、所得税の軽減効果は5,000円です。一方、税率が20%の年であれば、軽減効果は20,000円になります。

同じ10万円の経費でも、税率によって差は大きくなります。

住民税は原則として一律10%ですが、所得金額が変われば負担額も変わりますし、非課税限度額の判定にも影響することもあるでしょう。

さらに、各種給付金や助成制度の所得制限など、税金以外の制度にも影響することがあります。

したがって、「今年の方が税率が高いのか、それとも来年の方が高くなりそうか」、また各種の所得制限を超えないかどうかも、判断材料の一つになります。

もっとも、税率や所得制限だけで決めるべきものでもありません。制度の要件を満たしているか、継続性が保たれているかといった点もあわせて検討する必要があります。

まとめ

経費を「今年分にするか、来年分にするか」という問題は、単に支払日を調整すればよいという話ではありません。

まずは発生主義の原則に従い、動かせないものをきちんと区別することが出発点になります。

そのうえで、短期前払費用や繰延資産、貸倒引当金のように、制度上認められた範囲で判断できる項目については、税率や所得制限も踏まえて検討する余地があります。

もっとも、それぞれには要件や限度があり、自由に動かせるものではありません。制度の趣旨に沿った処理であることが前提です。

経費は利益を操作するための道具ではなく、事業の実態を正しく反映させるためのものです。

制度の枠内で冷静に判断することが、結果として無理のない税負担につながります。

※本記事は、執筆時点の法令・制度等に基づいて作成しています。
内容については正確を期しておりますが、今後の法改正等により変更される場合があります。
実際の適用にあたっては、最新の情報をご確認のうえ、専門家等にご相談ください。
なお、本記事の内容に基づいて生じた損害等については、当事務所では責任を負いかねますのでご了承ください。
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