こんにちは。和歌山で税理士をしております、和田全史です。今回もブログをご覧いただきありがとうございます。
前回は「年収の壁とは何か?」を全体的に整理しました。今回はその続きとして、所得税・住民税(市県民税)の壁について見ていきたいと思います。
いわゆる「103万円の壁」と呼ばれてきた基準をはじめ、税金面ではいくつかのラインがあります。これは、働く本人の税金だけでなく、配偶者や親の税負担にも関わるため、世帯全体に影響します。
令和7年からは基礎控除や給与所得控除の改正、特定親族特別控除の導入などにより、仕組みが変わります。また、住民税には地域差があり、一般的な情報は「1級地」を基準に書かれていることが多いのですが、和歌山市は「2級地」、周辺市町村は「3級地」に区分されています。今回はそうした点も踏まえながら整理していきます。
1. 所得税と住民税の基礎 ― 課税のしくみと地域差
所得税と住民税はいずれも「所得」に対して課税されますが、その仕組みや非課税となる範囲に違いがあります。
まず、所得税は国税であり、毎年の年末調整で精算したり、確定申告で確定します。基礎控除や給与所得控除などがあり、一定の所得までは課税されません。
一方、住民税は地方税であり、前年の所得をもとに課税されます。基礎控除の考え方は所得税と似ていますが、非課税となる基準額は全国一律ではありません。ここで導入されているのが「級地制度」です。
級地制度とは、地域ごとの物価水準や生活費の差を考慮して、非課税限度額を調整する仕組みです。都市部は生活費が高いため「1級地」、地方は比較的低いため「2級地」「3級地」に区分されています。
一般的な新聞やインターネット記事などでは「1級地」の数字をベースに解説されることが多いのですが、和歌山市は「2級地」、周辺の市町村は「3級地」に区分されています。そのため、和歌山で生活する方が制度を理解するには、この級地制度を踏まえることが重要です。
(注:ここでは一般的な基準をもとに整理していますが、住民税には障害者・未成年・寡婦(寡夫)の場合など別の非課税基準もあります。また、説明を分かりやすくするため給与収入ベースで記載していますが、実際の判定は合計所得金額ベースで行われます。)
2. 改正前の年収の壁(令和6年まで)
令和6年までの税金面で最もよく知られていたのが「103万円の壁」です。給与所得控除55万円と基礎控除48万円の合計に由来する目安で、実務上は配偶者控除や扶養控除の判定と結び付いて意識されてきました。
- 配偶者控除は、配偶者の収入が103万円以下でなければ対象外。配偶者特別控除があるため、少し超えても段階的に控除が縮小する仕組みでした。
- 扶養控除は「1円でも超えたら対象外」という崖型で、学生アルバイトなどに影響が大きい場面がありました。
住民税の非課税限度額にも地域差があり、一般的には1級地=100万円が用いられますが、実際には2級地=96.5万円(和歌山市)、3級地=93万円(周辺市町村)という違いがあります。
このように令和6年までの「壁」は、本人の税金にとどまらず、配偶者・扶養の判定や地域差も絡み、世帯全体に影響していました。令和7年からは一部緩和されるものの、収入ラインを意識する必要がある点は変わりません。
3. 改正後の年収の壁(令和7年から)
令和7年からは税制改正により、課税が始まるラインや扶養の判定に関わる仕組みが見直されました。
- 給与所得控除の最低額が55万円から65万円に引き上げられました。
- 所得税の基礎控除は、給与収入200.4万円未満の方は95万円と大幅に増額されました。
また、給与収入2,545万円以下の方は48万円→58万円に増額。
さらに、令和7年分、令和8年分の2年間に限り、給与収入200.4万円以上850万円以下の方は、収入に応じて5万円~37万円の追加控除額(通常の基礎控除と合わせて、63万円~88万円となります)が設定されました。 - 特定親族特別控除が創設されました。対象は19歳以上23歳未満(大学生世代)で、従来の“崖”を緩和する役割があります。詳細は次のパートで配偶者特別控除と併せて整理します。
これにより、課税が始まるラインは上がり、一部については段階的に調整される仕組みが導入されました。ただし、壁がなくなるわけではありません。どの水準で税負担が生じるかは、住民税も含めて確認が必要です。
4. 壁をなだらかにする仕組み ― 配偶者特別控除・特定親族特別控除
配偶者特別控除
配偶者控除は、令和7年から給与収入123万円までが対象になりました。123万円を超えると配偶者控除は使えませんが、ここから配偶者特別控除に移ります。収入が160万円までは満額(38万円)が適用され、その後は段階的に縮小し、201.6万円未満まで適用、201.6万円以上でゼロとなります(この上限は改正前と同じ)。
特定親族特別控除(令和7年~)
19歳から23歳未満のいわゆる大学生世代が対象です。これまでは、収入が基準を超えると親の扶養控除がいきなり使えなくなる“崖”がありましたが、改正後は、収入が123万円を超えて188万円以下の範囲で控除が段階的に縮小します。大学生の子どもがアルバイトで収入を得ても、親の税金が急に重くなることを避けやすくなりました。
このように、配偶者特別控除と特定親族特別控除は、いずれも「壁をなだらかにする」役割を担っています。次に、実際の金額水準を地域差も含めて確認します。
5. 具体的な基準額と地域ごとの比較
ここまでの内容を、給与収入ベースで一覧にしました(実際の判定は合計所得金額で行われます)。
区分 | 所得税(令和7年~) | 住民税(令和7年~) |
---|---|---|
課税が始まるライン(本人) | 給与収入160万円超(給与所得控除65万円+基礎控除95万円) | 均等割非課税限度額: 1級地=110万円/2級地(和歌山市)=106.5万円/3級地(周辺市町村)=103万円 |
配偶者控除 | 配偶者の給与収入123万円以下(合計所得58万円以下) | 同左(控除額は所得税より少ない) |
配偶者特別控除 | 配偶者の給与収入123万円超~201.6万円未満 ※123万円超で配偶者控除から移行/160万円までは満額、その後逓減 |
同左(控除額は所得税より少ない) |
扶養控除(16歳以上の親族) | 扶養親族の給与収入123万円以下(合計所得58万円以下) | 同左(控除額は所得税より少ない) |
特定親族特別控除(19~22歳) | 扶養親族の給与収入123万円超~188万円以下 ※123万円超で扶養控除から移行、控除が段階的に縮小 |
同左(控除額は所得税より少ない) |
実務でもよく「いくらから税金がかかりますか?」と質問を受けます。目安は次のとおりです。
- 所得税は、給与収入が123万円を超えると課税されます。
- 住民税は、地域によって異なり、1級地=110万円、2級地(和歌山市)=106.5万円、3級地(周辺市町村)=103万円を超えると課税されます。
まとめ
今回は、所得税と住民税における「年収の壁」を整理しました。令和7年の改正により、基礎控除や給与所得控除が見直され、課税が始まるラインは以前より高くなりました。また、配偶者控除や扶養控除の対象が給与収入123万円までに引き上げられました。
さらに、配偶者特別控除に加え、新設された特定親族特別控除によって、“1円超えたら即アウト”という崖のような部分は、以前よりなだらかに調整されています。一方で、住民税には級地制度による地域差があり、和歌山市(2級地)や周辺市町村(3級地)では、全国的に使われる1級地の数字より低い水準で課税が始まります。
このように「年収の壁」は、改正で高くなった面もあれば、なだらかになった面もあります。自分や家族の収入がどのラインにあるかを把握することが、働き方やライフプランを考えるうえで大切だと思います。
次回は、社会保険における「年収の壁」について整理します。
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